第?話 夏騒動−1(啓祐編1)
 〜せつない胸に風が吹いてた〜


 六月下旬の日曜日。俺は架橋行きの電車に乗っていた。しかし、俺自身は架橋に用事はない。
「ごめんね、付き合ってもらっちゃって……」
 用事があるのは、この麗ちゃんである。
「んやぁ、別にいいよ。どうせ暇してたしよ」
 今日の電車は日曜ということで多少混雑しているが、俺と麗ちゃんは上手くボックス席に座れた。向かい合って座っている。二人並んで座れれば、それこそ舞い上がるような気分かも知れないが、贅沢は言うまい。
 去年のGWに架橋で偶然麗ちゃんに会った。その時、俺は一人で架橋に来ていた麗ちゃんに「これから一人で来るなら俺を誘っていいよ」と言っていた。
 その後、ランと仲の良くなっていった麗ちゃんは、架橋に行くときはそのランを誘っていたようなのだ。ところが、今日はランが柔道部の練習試合で同行できないでいた。そこで、俺の前の言葉を覚えていてくれた麗ちゃんは、俺を誘ったのだ。
 経緯はどうであれ、嬉しいシチュエーションだ。何でも言ってみるもんだと、しみじみ思ってしまう。
 とは言っても、言った俺でさえ忘れていた言葉だった。気分はまるで瓢箪から駒だ。
 梅雨の時期だが、今日は晴れている。空に雲は少し多いが、いい天気だ。天気予報では、今日の降水確率は10%と言っていたし、洗濯指数も80%だった。最近嬉しい、晴れである。
 そんな日和だから、今日はアロハシャツで外出。水に弱いレーヨンのアロハシャツは、梅雨にはあまり着られないのだ。尤も、俺の一張羅みたいなアロハシャツだから、早々何度も着られないが。洗濯もドライクリーニングに出さなければいけない。
 何にしろ、今日はアロハシャツで正解だった。自転車で仏が丘駅に来る間、風が何とも心地良かったのだ。
 そして麗ちゃんも今日は半袖のブラウスで涼しげな格好だ。麗ちゃんだけではなく、電車に乗っている人の大半が涼しそうな格好だ。真夏が近い証拠だろう。電車にも冷房が入っている。
「今日は何を買うの?画材?」
「ううん、今日は洋服。夏服よ」
「アロハ?」
「違うわよ」
 麗ちゃんが苦笑した。確かに、大人しめの麗ちゃんはハワイアンなイメージではない。
「でも、晴れて本当に良かったわ。夕べ、啓祐君に電話した後、雨大降りになったでしょ?」
「なぁ。急に降って来るんだもん、吃驚した」
 麗ちゃんから連絡があったのが午後七時頃は小雨程度だったのが、一時間後の午後八時には雷を伴った大雨になっていた。余りテレビを観ない俺だが、この時ばかりはテレビをつけ天気予報に注目した。今日の天気は晴れと気象庁は言っていたが、実際半信半疑だった。
「梅雨なんて早く終わってくれればいいのになー」
俺は正直雨が嫌いだ。じめじめしているせいか、気分も少し憂鬱になりがちである。
「私は、梅雨ってそんなに嫌いじゃないよ」
 麗ちゃんは俺の言葉に対し、そう言った。
「どうしてぇ?」
「雨はイヤだけど、雨上がりは好きなの。結構景色綺麗よ。虹なんて見られたらいいじゃない」
 うーむ、前向きな考え方だ。
「雨が降らなきゃ、ダムも干上がるし、水不足になるしな。農家も困る」
 雨が降らなければどういう結果になるかは分かり切っていたが、改めて口に出した。
 俺にしてみたら、とりあえず今日という日に雨が降っていないので良し。雨が降っても麗ちゃんに同行したけど、どうせなら抵抗なく歩ける天気がいい。

 電車を下りて、架橋駅から出た。空は益々青く、俺の足取りも軽い。
 行き先は、商店街『縞田通り』にあるブティック『アトリエ』。ブティックに行くと聞いて、軽く抵抗を覚えた。確かに俺は女友達が多い。一緒に買い物に行く事だって少なくなくない。だがブティックにはほとんど行かない。特にアトリエのような専門店は。一番身近な美里は俺や陽一のお下がりも着こなすメンズファッション愛好家。ブティックには縁がない女の子だ。続いて早紀の場合は服装に関しては余り関与しない為、楽器屋になら何度も一緒に行った事があっても、一緒にブティックに入ったことはない。ライブだって持ち前の服で衣装を決定してしまう。ランに関しては、それこそ関せず、といった状態である。ワイルドとかラフとかいうイメージの服ばかり着ているランだ、ブティックに行くこと事体が少ないと思う。実際、ランのスカート姿は、学校の制服以外では一度も見たことがない。多分本人も気付いているだろう、スカートが似合わないことに。スカートというか、レディースの服自体がランのイメージではない。
 と、いうわけで、アトリエに初めて入った。存在は知っていたが、今まで入ったことはなかった。
「へぇ……意外と狭いんだ」
「あれ、啓祐君、ここ入るの初めてなの?」
「うん」
 麗ちゃんは俺がブティックのような店に来るのが初めてとは思っていなかったようだ。考えてみれば、俺を誘ったのも、俺ならブティックに馴れていると思うところがあったからだろう。
 女性が身に付ける衣類なら大体あるようだ。シャツやズボン・スカートの他に靴や靴下、それに下着も売っている。下着の方はなるだけ見ないようにしよう。だがしかし、それを見たくなるのが人間の……否、男の性よ。
 ……そう言えば麗ちゃん、まさか下着も買うのだろうか?例えば買う服が、キャミソールのように肩の露出が多い服なら、ブラジャーだって肩紐のないタイプがいいだろう。そうすると、やっぱりパンティの方もブラジャーに揃えて買ってみたり……。
「……啓祐君、私だったら何色が似合うと思う?」
「白、だな。純白」
「真っ白?模様もない?」
「うん、純白。あ、でも同じ白いやつでも色んなタイプあるし……」
「そうね。飾りっ気が全然ないのも、何かつまんないし……」
「そうそう。分かってんじゃん」
「あ、この紐のなんかどう?」
「ひ、紐!?ちょっと麗ちゃんには……いや、み、見てみたい気もするけど……」
「そう?まぁ、私、こういうのって初めてだし……似合わない?」
「そんなことはないぞ、イイよ、凄く」
「あ!こっちの黒いのもいいなー」
「黒……ッスか……。まだ、早いんじゃないかなー」
「そう?梅雨が明けたらもう夏でしょ?今買っても丁度いいと思うけど」
「そうか、麗ちゃんは夏には黒……なんだ」
「あ、黒じゃ熱吸収しやすいわね……じゃ、こっちの黄色ね!このヒラヒラも可愛い」
「うん、可愛い……凄く」
「こっちのチャックのついたのもいいなー」
「チャ……チャック!?そんなマニアックな……いや、いいよ、凄く」
「何か、迷うなァ……。あ、そうだ、折角だし、試着してみるね」
「そうだな、こういうのは上と下のバランスもあるし、実際に着けてみるのがいいよ……凄く」
「あ、啓祐君に見てもらおうかな、順番に」
「順番!?……と、とりあえず最後まで見るかんね……凄く」
「ありがとう。実はね、このジーパンに合うのを探してるのよ、今日」
「ジーパンに合う!?なんで?隠れるじゃん、凄く」
「隠れる……?いやだ、ジーパンの中には入れないわよ」
「おいおい、それじゃあ露出狂だよ……凄く」
「……何か、微妙に会話喰い違ってない?」
「…………うん?」
「こういう感じの服の服って、別にジーパンに入れないでしょ?入れた方がいい?」
「服……あー、いや、入れたら変だ」
「でしょ?」
 どうやらパンティ選びではなかったらしい。危ない危ない。

 麗ちゃんが買ったのは、黄色いノースリーブ系の服。肩口のところにヒラヒラが付いたやつだ。今日のこの陽気が幸いして、麗ちゃんは早速それを着ている。更に陽気が幸いして、「いい天気だし、公園にでも行こう」という意見が通ってしまった。陽気万歳。陽気最高。
「ホント、今日いい天気ー」
「うん、いい日だ……」
 色んな意味でそう思う。単に公園を散歩しているだけなのに、気分はいい。
 ここは縞田通りから近い公園。公園と言ってもブランコや滑り台のあるような児童公園ではなく、普通にデートスポットとされている緑あふれる公園。『みどり公園』という……そのまんまの名前だ。広い公園で、中央には芝生が一面に広がったところがあり、今日のような天気のいい休日には、家族連れや子供達の憩いの場となっている。
 この辺りでは一番都会の架橋市に、このような緑溢れる広大な公園があるのは、やはり人間が緑というものを必要としているからだろうか。町中の緑は人間の免罪符という見方もあるようだが、もしそれが真実なら、これほど人は集まらないだろう。
 麗ちゃんは真新しい服で、上機嫌のようだ。普段はどちらかと言うと大人しい麗ちゃんが、少しはしゃいで見える。
「……そんなに気に入ったんだ、その服」
「うふふ……気に入ったっていうかね……実は自分で選んで服買うの初めてだったの」
「は?」
 どういうことだろう?その言葉から察するに、普段は自分の意思とは無関係にある服を着ていたことになる。
「親がね、いつも選んでるの。何か……『麗子はこの服を着ろ』って感じで……。だから、最近は好きな服がなくて……でも、このジーパンは珍しく気に入っちゃったのよ」
 そう言えば、麗ちゃんの普段着姿にジーパンのイメージはどこにもなかった。
「それで、タンスとかクローゼットとかに入ってる服、ありったけ引っ張り出して、これに合うシャツとか探してたんだけど、どれもいまいちで……」
「ふーん。それで、か。でも、ジーパンって結構何でも合うと思うけどな」
 ジーパンと合わないシャツを探す方が難しい気がする。
「そう?」
「うん。無地のTシャツでもワイシャツでも似合うし、あ、ホラ、俺みたいにアロハだって似合わなくない……と思うし。他にポロシャツとかでもいいし、他には〜……あ、冬のセーターとかでも違和感なく着られるし。まぁ、似合わないっつったら、例えば背広とかかな。堅苦しい服はちっと似合わないけど、その他だったら大体合うと思うよ」
 勿論、麗ちゃんがどういう服を持っているかは若干知っている。家柄が家柄だけに、堅苦しそうな服も多いようだが、ジーパンに合う服も沢山あると思う。
 多分だが、どこかで自分の選んだ服を着たいという気持ちがずっとあったんだろう。それが、珍しく自分で気に入ったジーパンの出現で、更に大きな気持ちとなったのだと思う。
「ま、でも親が全部選んるとは思わなかった」
「過保護と思うでしょ?」
 多分、相手が麗ちゃんでなければ過保護と思っただろう。しかし麗ちゃんはYKコーポレーションの令嬢だ。服装などに親の管理が行き届いて当然だと思う。
「別に……思わないけど」
「でも、私はあんまり自分の家庭が好きじゃないわ。多分、ないもの強請りなんだと思うけど……一般的な家庭に憧れるなァ」
 少し麗ちゃんの口調に元気がなくなった。
「ふふ、このペンダントね……」
 と、麗ちゃんが襟口からペンダントを引っ張り出し、俺に見せた。黒光りした石のペンダントだ。
「実はね、この中に発信機が入ってるのよ」
「発信機ィ〜?」
「誘拐された時の為の物なのよ」
 確かに、身代金目的で誘拐されてもおかしくない環境にいる。
「前にお父さん言ってたんだけど、本当なら外出時にはボディガードを付けたいんだって。でも、それじゃ私が可愛そうだからって……この発信機付きのペンダントを付けろって」
「へぇ、いいお父さんじゃん」
「でもね、あんまり自分のことを自分で決めた覚えがないのよ。私が言う前に、お父さんが大体決めちゃって……高校だって本当はお父さんが選んだのよ」
 その言葉には驚いた。高校を決めるのは、人生を左右する要素の一つだと思う。それを、自分ではなくて父親が決めていたとは。
「……でも麗ちゃん、ブッコーに来て、後悔してる?」
「後悔はしていないわよ。お父さんが言わなくてもブッコーを受けるつもりだったし。でもこの先、大学も就職先も決められて……結婚相手も自分で決められないかもしれないわ」
 結婚相手という言葉に、少し戸惑った。少なくとも俺は選ばれないだろう。
「でも麗ちゃんが自分から嫌だって言えば……」
「言いたいけど……多分、そうすると会社のこと出されると思う。そうすると、私に選択権はないわ。……どうして私、一人っ子なんだろう」
 最後の一言が、やけに現実味があった。時と共に、この横須賀麗子という少女の双肩に、YKコーポレーションという大企業の運命がのしかかるのだ。YKコーポレーションの跡取として。
 俺は何かを言おうとするが、言葉が使えない。そして先に麗ちゃんが喋り出す。
「でもね私、友達にはすっごく恵まれたと思うの。みんないい人で個性的で……舞ちゃんとか、啓祐君とか」
 友達……。

 それは時間に直せば、ほんの一瞬だったのだろう。だがその一瞬で凄く沢山のことを考えた。でも考えたことは一つだけ。一つのことを何度も考えた。
 麗ちゃんにとって、俺は本当に友達なのだろうか?自分の願望は答えをNOと導きたいらしい。今日、この公園に二人で来たこと。架橋に行こうと言ってくれたこと。少なくとも俺のことを嫌っているとかそういうことはないとは容易に分かる。しかし、それでも俺は友達かも知れない。
 答えはNOにはならない。
「麗ちゃん……」
 考えた一瞬が、実に俺の気分を高揚させた。俺の中で結論は出ていない。しかし、真実を欲している。
「多分麗ちゃん……これからも、さっき言ったみたいな、自分であんまり物事を決められないようなことあると思うけど……」
 俺は麗ちゃんにとって友達なのか?先走りかもしれないが、それでも俺は真実を欲している。
「俺、麗ちゃんの支えになれないかな……友達、じゃなくて」
 真実を欲する俺の言葉に、ふと麗ちゃんが足を止める。少しだけ麗ちゃんより前に歩いてしまった俺は、足を止めて振り向かずに答えを待った。
 今頃になって、周りに人がいない場所に来ていたと気付いた。
 向こうの芝生で遊んでいる子供の声や、風にざわめく木の葉の音が、少し身近に聞こえてきた。そして、自分の鼓動もいつの間にか聞こえている。
「啓祐君は……」
 不意に麗ちゃんが小さな声で言った。
 真実を欲している俺の鼓動が、更に早まった。俺は、麗ちゃんにとって、友達か、否か?
 再び回りの音が近くなる。俺は麗ちゃんの言葉をただただ待っている。
 そして、麗ちゃんの言葉が、その沈黙を破った。
「啓祐君は、私にとって……………………友達……よ」
 一瞬、音が途切れた。
 俺は黙っている。そんな俺の後ろにいる麗ちゃんが、一歩だけ俺の背中に近付いた。
「ごめんね、啓祐君……私、啓祐君がどう思ってるか、気付いてた……。でも、啓祐君は……やっぱり大切な友達……」
 麗ちゃんも俺に言葉をかけづらいのだろう、言葉一つ一つが弱々しい。それでも麗ちゃんは俺に語りかける。
「それに……啓祐君が本当に好きなのって、私じゃないと思う……」
 予想外の言葉に、俺は振り返った。そこには優しい表情をした麗ちゃんがいた。
「……どういう……」
「啓祐君……本当に好きな人には、凄くいい形で接してるの。啓祐君なりの方法だけどね。正直に言うと……羨ましいくらい」
 俺には見当がつかないが、麗ちゃんは『本当に俺が好きな人』なる人物を知っているらしい。
「でもね、私には……どこか遠慮してるって言うか、甘いって言うか……そんな接し方」
 麗ちゃんは苦笑気味に瞳を逸らした。そして、そのまま身体ごと後ろを向き、
「でも啓祐君……ずるいって思うかも知れないけど……今まで通り、私の友達でいてくれない?啓祐君は私にとって……大切な友達、なの……」

 美里、早紀、ランの誰かが、麗ちゃんの言う『本当に俺が好きな人』だと思う。俺が凄くいい形で接しているという相手。
 美里は、言葉を覚えるより前から付き合いがある。そのせいで、良い意味で恋愛感情を抱いたことはない。結果的に一人っ子の俺だが、美里は陽一同然兄弟のような存在なのだ。
 早紀は、恋愛感情云々以前に、バンド以外では口喧嘩ばかりしている天敵。第一凄くいい形で接しているとは到底思えない。
 ランは、あんな性格だから、どちらかというと男友達に近い。姿形は確かに女性そのものだが、あまり性別を気にせずに接している。
「……他の誰か?」
 一通り三人を思い浮かべた後に他の候補者を探してみた。だが見付かるはずもなく、俺は一人みどり公園のベンチに座っていた。
 麗ちゃんは俺に俺は友達と告げた後に、先に帰った。お互い、二人で居づらい雰囲気を作ってしまったからだろう。
 いつの間にか雲が多くなってきた。もう夕方ということも手伝って、段々暗くなる。
「……帰るか」
 雲が多くなった空を仰ぎ見て、みどり公園を後にした。
 俺が本当に好きな人が麗ちゃんではないという言葉を受けたせいか、麗ちゃんにふられたショックは思いの他少なく、代わりに頭の中には美里と早紀とランの三人が代わる代わる浮かんている。
 電車に乗っている時も、ずっと考えていた。
 今まで気付かなかったのだから、意識していい形で接したことはしていないだろう。該当するとしたら、恐らく美里。これだけ長く付き合って、あまり喧嘩などしたことはない。ただ、美里の場合は恋愛感情とは思えない。
 恋愛感情を抱くとして、一番可能性があるとすれば、多分早紀。美里が兄弟でランが男友達なら、残るは早紀なのだ。ただそうすると、いい形で接するというところで引っかかる。
 ランの場合は、理屈以前に問題外。
 結局結論が出せないまま、家に辿り着いた。時刻は七時を過ぎているが、家の電気は消えたままだ。
「何だよ、親父まだ帰ってないのか……」
 親父は今週の火曜日から出張で家を空けていた。そして、今日の夕方頃に帰ってくると言っていたのだが、まだ帰っていないらしい。
 予定が少し遅れたのだろう。そう思いながら玄関の鍵を開け、真っ直ぐ台所に向かい、有り合わせの材料で料理を作り始めた。肉や野菜を適当に刻んで、炒めた。野菜炒めというやつだ。大した料理ではない。あとはご飯と味噌汁。シンプルな料理だ。今日はなんか、身体を動かすのをなるだけ遠慮したい。
 飯を喰っている最中、良く見たら留守番電話のランプが光っているのに気付いた。親父の伝言かと、ボタンを押してみる。だが、録音された声は親父の声ではなかった。
『南さんのお宅ですか。こちら警察です』
 警察と聞いて、胸騒ぎがした。留守番電話のノイズという沈黙の次の言葉を、俺は電話を凝視しながら待った。


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